M&Aの手順と民事再生手続の活用 (弁護士 寺澤政治)


次に、「M&A」がどのような手順で進められていくかについて説明します(2008/12/1)。


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M&Aの一般的な進め方

■ M&Aは、一般的に、秘密保持契約書(NDA)及び基本合意書の調印→デュー・デリジェンスの実施→買収価格の算定・買収交渉→本契約書の調印→クロージング(代金の支払、株式や事業の引渡しなど)の順序で進められる。
 M&Aの進め方には、いろいろなケースがありますが、一般的には以下の順序で進められます。

@ 秘密保持契約書(NDA)及び基本合意書の調印(基本合意書の調印を省略することもあります。)
A デュー・デリジェンスの実施
B 買い手における買収価格の算定・売り手との買収交渉
C 本契約書(株式譲渡契約書、事業譲渡契約書など)の調印
D クロージング(代金の支払、株式や事業の引渡しなど)


 M&Aでは、買い手が競合するケースも少なくありません。この場合は、Bの買収交渉について、ビッド(競争入札)の方式が採用される場合もあります。


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経営に行き詰まった会社の株式や事業を買う場合−民事再生手続の活用

経営が行き詰まった会社の株式や事業を買う場合、民事再生手続の活用を検討すべきである。

 中小企業に関する会社や事業の売却理由には、@本業はマネジメントをしっかりすれば採算がとれるにもかかわらず経営多角化や事業拡大の失敗などで実質的に債務超過に陥ってしまったケース、A後継者がいないケースなどが多いと思われます。
 前者のケースでは、会社そのもの(株式)を買収してしまうと、会社の債務も負担する結果になってしまいます。また、事業に必要となる資産(工場の土地建物や機械設備など)には通常銀行の担保権(抵当権、根抵当権、譲渡担保など)が設定されており、その資産の評価額が銀行からの借入金額に達しない場合、銀行は担保権の解除に簡単には応じてくれません。さらに、債務超過状態の会社から資産を譲り受けた場合、債権者から詐害行為(債権者を害する行為として取り消すことができる制度)のクレームが出される危険性もあります。
 このようなケースでは、債務者である売り手に民事再生を申し立ててもらい、民事再生手続の中で事業譲渡や株式譲渡を行う方法を検討すべきです。


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民事再生手続のメリット

民事再生手続の活用には、@商権の毀損を防ぐ、A担保権抹消の可能性が飛躍的に高まる、B詐害行為取消のリスクを最小限に抑えるなどのメリットがある。
 破産手続でも、裁判所の許可を得て事業を継続できる可能性もありますが、破産申立てとともに急速に商権が毀損されてしまうことが多く、事業譲渡を考えている場合は、お勧めできる選択ではありません。
 民事再生手続の活用には、以下のメリットが挙げられます。

メリット1−商権の毀損をなるべく防ぐこと

 民事再生手続では、事業譲渡・株式譲渡を前提とした「プレ・パッケージ」型と呼ばれる手法があり、再生手続開始後の早い段階で、債権者の意見聴取集会・裁判所の許可の手続を経て事業譲渡・株式譲渡を実施することにより、商権の毀損を相当程度防ぐことができます。東京地方裁判所では、「民事再生手続標準スケジュール」が定められており、手続はかなり迅速に進められています。

メリット2−担保権抹消の可能性が飛躍的に高まること

 民事再生手続には、最後の手段というべきものですが、担保権消滅請求という手続が設けられております。これは、裁判所の許可を得て事業用資産(工場の土地建物や機械設備など)の担保権を相当対価の支払により消滅させる手続です。実務的には、このような制度があることを最後の拠り所として、早期に不動産鑑定士などに依頼して担保目的物の鑑定評価を実施し、担保権者との間で担保権抹消の交渉を実施します。民事再生手続を利用しない場合とは異なり、裁判所の関与があるため、価格や手続の公正さが担保されることから、銀行などの担保権者が担保権の抹消に応じる可能性は飛躍的に高まります。

メリット3−詐害行為取消のリスクを最小限に抑えること

 事業譲渡は、財産権の譲渡を含むので、債権者から詐害行為(債権者を害する行為として取り消すことができる制度)のクレームを受けるリスクがあります。しかし、民事再生手続における事業譲渡は、債権者の意見聴取集会を開催した上で、裁判所の許可を得て実施されることから、詐害行為取消のリスクを最小限に抑えることが可能となります。


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買い手としての民事再生手続への関与

事業・株式の譲受予定者としていろいろな局面で関与することになる。スポンサーとしてDIPファイナスを実施するケースもある。
 「プレ・パッケージ」型民事再生においては、買い手も事業・株式の譲受予定者として、いろいろな局面で関与することになります。
 まず、譲渡代金等の条件について再生会社(売り手)との間で交渉を行うこととなりますが、譲渡代金については、再生計画・債権者への配当に大きな影響を与え、債権者の意見聴取集会で賛成意見を集める(反対意見を回避する)ためにたいへん重要な要素となりますので、適正な金額を定めるようにしなければなりません。
 民事再生手続開始の申立てに際しては、再生会社に半年程度の資金繰りの目処が必要となりますので、「プレ・パッケージ」型民事再生の場合、再生会社に対し、「スポンサー」として「DIPファイナンス」と呼ばれる融資を行う内容のスポンサー契約を締結することがあります。
 事業・株式の譲渡の実施が決まりますと、旧経営陣の影響力が急速に弱まりますので、速やかにその事業を統率・運営できるよう、あらかじめ周到に準備を整えておく必要があります。



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