不公正な取引方法とは?(弁護士 寺澤政治)


 公正取引委員会は、今年の6月、家電量販店Y社に対し、独占禁止法第19条(不公正な取引方法の禁止)に違反するとして排除措置命令を行いました。Y社は、店舗の新規オープンや改装オープンに際し、納入業者に対し、その従業員らを、費用負担することなく派遣させる等の行為をしており、これが同法19条に基づき定められている大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法第7項(納入業者の従業員等の不当使用等)に該当するとされたものです。
 どのような行為が「不公正な取引方法」に該当するのか、不公正な取引方法を用いられたときの対処方法等について説明します(2008/12/10)。


リストマーク 「不公正な取引方法」とは?

■ 「不公正な取引方法」は、公正取引委員会により、16の類型が定められており、さらに特定の業種に適用される類型も定められている。
 独占禁止法は、「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」と定めており(第19条)、これに違反した場合、公正取引委員会は、「当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる」ものとされています(第20条)。
 「不公正な取引方法」(独占禁止法第2条第9項)については、公正取引委員会によって、すべての業種に適用される「一般指定」と、特定の業種に適用される「特殊指定」(「大規模小売業者による納入業者との取引に関する指定」もこれに含まれます。)とが定められています。
 一般指定では、次の16の類型が「不公正な取引方法」として指定されています。
共同の取引拒絶
正当な理由がないのに、競争者と共同して、ある事業者に対し取引の拒絶や取引に係る商品・役務の数量・内容の制限し、または、他の事業者にこれらに該当する行為をさせること

その他の取引拒絶
不当に、ある事業者に対し取引の拒絶、取引に係る商品・役務の数量・内容の制限し、または、他の事業者にこれらに該当する行為をさせること

差別対価
不当に、差別的な対価で、商品・役務を供給し、またはこれらの供給を受けること

取引条件等の差別取扱い
不当に、ある事業者に対し取引の条件・実施について有利または不利な取扱いをすること

事業者団体における差別取扱い等
事業者団体や共同行為からある事業者を不当に排斥し、事業者団体の内部や共同行為においてある事業者を不当に差別的に取扱い、その事業者の事業活動を困難にさせること

不当廉売
正当な理由がないのに商品・役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること

不当高価購入
不当に商品・役務を高い対価で購入し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること

ぎまん的顧客誘引
実際のものや競争者のものよりも著しく優良・有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること

不当な利益による顧客誘引
正常な商慣習に照らして不当な利益をもって、競争者の顧客を自己と取引するように誘引すること

10 抱き合わせ販売
相手方に対し、不当に、商品・役務の供給に併せて他の商品・役務を購入させ、その他自己または自己の指定する事業者と取引するように強制すること

11 排他条件付取引
不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること

12 再販売価格の拘束
自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、相手方の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の販売価格の自由な決定を拘束すること等

13 拘束条件付取引
相手方が他者と行う取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること

14 優越的地位の濫用
自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかの行為をすること
@ 継続取引の相手方に対し、当該取引に係る商品・役務以外の商品・役務を購入させること
A 継続取引の相手方に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
B 相手方に不利益になるように取引条件を設定し、または変更すること
C 取引の条件または実施について相手方に不利益を与えること
D 取引の相手会社に対し、その会社の役員の選任についてあらかじめ自己の指示に従わせ、または自己の承認を受けさせること

15 競争者に対する取引妨害
自己、自己が株主や役員である会社と競争関係にある他の事業者とその相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他不当に妨害すること

16 競争会社に対する内部干渉
自己、自己が株主や役員である会社と競争関係にある他の会社の株主、役員に対し、株主権の行使、株式の譲渡、秘密の漏えいその他その会社の不利益になるように、不当に誘引し、そそのかし、または強制すること

 特殊指定には、「新聞業に対する指定」、「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の指定」、「大規模小売業者による納入業者との取引に関する指定」があります。
 このうち、「大規模小売業者による納入業者との取引に関する指定」では、詳細は省略しますが、以下の類型が不公正な取引方法として定められています。
不当な返品
不当な値引き
不当な委託販売取引
特殊商品等の買いたたき
特別注文品の受領拒否
押し付け販売等
納入業者の従業員等の不当使用等
不当な経済上の利益の収受等
要求拒否の場合の不利益な取扱い
10 公正取引委員会への報告に対する不利益な取扱い

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公正取引委員会の役割

■ 公正取引委員会は、独占禁止法違反事実の報告があると、調査を行った上で、排除措置命令を行うことができる。
 公正取引委員会は、独占禁止法違反事実の報告があった場合、調査を実施します。調査では、関係者の出頭命令、帳簿書類等の提出命令、立入調査などの強制処分もできます(独占禁止法第47条)。これらの強制処分に応じないときは検査妨害等の罪として刑罰も定められています(独占禁止法第94条)。
 調査の結果、独占禁止法違反行為が認められた場合、公正取引委員会は、違反行為者に対し、その違反行為を排除する等の措置を採るよう命ずることができます(排除措置命令・独占禁止法第49条)。そのほかにも「警告」や「注意」を行うこともあります。


リストマーク 不公正な取引方法を用いられた場合の対処方法

■ 公正取引委員会の相談・申告窓口で、相談や違反事実の報告をすることができる。
 独占禁止法違反事実の報告は、誰でもできることとされています(独占禁止法第45条第1項)。公正取引委員会には、独占禁止法に関する相談窓口、申告窓口が設置されており、電話や訪庁による相談・違反事実の報告を行うことができます。 


リストマーク 事業者等の活動に係る事前相談制度

■ 事業者もこれから行おうとする取引等が「不公正な取引方法」に該当するか否かについて、公正取引委員会に事前相談をすることができる。

 事業者も、これから行おうとする取引や何らかの具体的な行為が、「不公正な取引方法」に該当するか否かを、公正取引委員会に相談することができます(事前相談制度)。「事前相談申出書」の書式も公開されており、書面で回答をもらうことができます。
 なお、事前相談は、独占禁止法に関するもののほか、下請法、景品表示法に関するものについても行うことができます。


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