労働者派遣事業と偽装請負(弁護士 寺澤政治)


業務委託契約・請負契約の形式を採りながら、実態は委託者や発注者が、直接受託者・請負会社の労働者を指揮命令しているという「偽装請負」が問題となっています。この問題について解説します(2008/4/15)。


リストマーク 「偽装請負」に該当した場合どのような問題となるか?

■ 「偽装請負」により、労働者派遣の許可や届出を行っていない業者から労働者が派遣されている場合、派遣した会社のみならず、受け入れた会社も違法となる。
 業務委託契約・請負契約の形式を採りながら、実態は委託者側が受託者側の労働者を直接指揮命令しているという「偽装請負」が問題となっています。
 このような「偽装請負」において、労働者派遣の許可や届出を行っていない業者から労働者が派遣されている場合は、労働者を派遣した業者のみならず、受け入れた会社も労働者派遣法違反となります(労働者派遣法24条の2)。
 また、受託者側(派遣元)に委託業務の主体としての実態がない場合や、受託者側(派遣元)が他者から派遣を受けていた労働者をさらに派遣していた場合(二重派遣)は、職業安定法の禁止する労働者供給事業に該当することとなり、労働者を派遣した会社も、受け入れた会社も、同法違反として刑事罰の対象となってしまいます(職業安定法44条、64条8号「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」)。


リストマーク 労働者派遣事業を行うために必要なこと

■ 特定派遣事業は届出制、一般派遣事業は許可制であり、港湾運送業務、建設業務、警備業務、医療機関における医療関連業務は派遣事業が原則禁止されている。
 労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、
当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」をいいます(労働者派遣法第2条第1号)。従前は、労働者派遣も含め、労働者を他人に提供して使用させる事業は、「労働者供給事業」として禁止されていたのですが、労働者派遣法により、自己の雇用する労働者を他人に派遣する場合に限って、認められることとなったのです。
 労働者派遣事業は、特定派遣事業と一般派遣事業とに区別されます。
 特定派遣事業とは、派遣労働者の全員が派遣元の常用雇用である場合をいいます。特定派遣事業を営業しようとする事業主は、その主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局を経由して、厚生労働大臣に特定派遣事業の届出をしなければなりません(労働者派遣法16条)。
 一般派遣事業とは、派遣労働者に常用雇用以外の労働者を含む場合をいいます。一般派遣事業を営業しようとする事業主は、その主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局を経由して、厚生労働大臣に一般派遣事業の許可の申請をし、その許可を受けなければなりません(労働者派遣法5条)。
 港湾運送業務、建設業務、警備業務、医療関係における医療関連業務については、労働者派遣事業が原則として禁止されています(労働者派遣法4条1項、同法施行令2条)。
 これらの違反は刑事罰の対象となります(労働者派遣法59条、60条)。

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労働者派遣事業と業務委託・請負により行われる事業との区別

■ 業務委託契約・請負契約の形式を採っていても、委託者側(派遣先)が受託者側(派遣元)の労働者に直接業務に関する指示を出している場合等は、労働者派遣事業として扱われる。
 労働者派遣事業と業務委託・請負により行われる事業とを区分する基準として、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示37号)が定められています。
 請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であっても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の1及び2のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。
 次の(1)から(3)までのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
(1)  次の@及びAのいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
@  労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
A  労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
(2)  次の@及びAのいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
@  労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
A  労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
(3)  次の@及びAのいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
@  労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
A  労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
 次の(1)から(3)までのいずれにも該当することにより請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
(1)  業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
(2)  業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
(3)  次のイ又はロのいずれかに該当するものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。
 この基準については、厚生労働省のホームページ(労働者派遣事業を適正に実施するために−許可・更新等手続マニュアル◆労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分基準のPDFファイル)において、さらに具体的判断基準が公開されていますので、ご確認ください。


リストマーク 取締りの強化と対策

■ 偽装請負の取締りが強化されており、労働者派遣の実態の場合は、労働者派遣事業の許可・届出を行い、派遣法のルールに従った事業活動を行うべきである。
 
最近は著名企業においても続々と偽装請負が発覚し、立入り調査や行政指導が行われています。私が以前勤務していたIT業界では、偽装請負や多重派遣が常態化していましたが、今後取締りの強化が予想されます。
 実態が労働者派遣事業に該当する場合は、労働者派遣事業の許可・届出を行い、派遣法のルールに従った事業活動を行うべきですし、業務委託・請負であるならば、上記の基準をよく理解し、客先とも十分に協議して、業務の進め方、労働者の指揮命令や管理の仕方等を早急に見直す必要があります。



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