|
事業承継の失敗
|
芳雄さんは、○○株式会社の代表取締役で100%株主でした。芳雄さんは、奥さんに先立たれましたが、会社の取締役として芳雄さんとともに働いていた長男の雄一さんに事業を引き継ぐつもりでいました。
芳雄さんには、雄一さんのほかに、次男の孝二さん、長女さゆりさん、次女ゆかりさんの3人のお子さん(以下「孝二さんら」といいます)がいましたが、3人はいずれも独立しており、雄一さんとはあまり仲がよくありませんでした。
芳雄さんは、遺言書を作成しないまま死亡し、芳雄さんの死後、孝二さんらは、芳雄さんの遺産である株式について法定相続分の権利を主張し、相続争いが起こりました。
この相続争いは、遺言書がないため、法定相続分に従って株式については各兄弟が4分の1ずつ相続することとなり、雄一さんは、4分の1の株式しか取得できず、会社の経営権を引き継ぐことはできませんでした。
|
|
このように何の対策も講じないまま経営者が死亡して相続が発生しますと、株式は相続分に従って相続人らに分散してしまうため、後継者に事業を引き継ぐことができない場合も起こりうるのです。
|
|
|
|
株式の段階的な移転、遺言書の作成
芳雄さんは、雄一さんに事業を承継させるのであれば、雄一さんに株式を段階的に取得・移転させ(生前贈与)、また、株式について雄一さんに相続させる旨の遺言書を作成しておくなどの対策を講じておく必要がありました。
なお、遺言書については、その内容をよく検討しなければなりません。相続人には遺留分という権利があります(たとえば雄一さんにすべての遺産を相続させる内容の遺言書を作成したとしても、孝二さんらはそれぞれの法定相続分の1/2については遺留分として権利を主張することができます。なお、生前贈与についても遺留分の適用があります)。そこで、後継者以外の相続人には、その遺留分に相当する価額分だけ株式以外の遺産を分け与えるなどの工夫をする必要があります。
|
|
|
|
後継者への議決権の集中が重要
後継者が会社を安定的に経営できるようにするためには、後継者に、株主総会における重要事項の決議に必要となる3分の2以上の議決権を集中させることを考えるべきです。上述した株式の段階的移転や遺言書の作成もそのための対策です。
株式が経営者以外に分散しているような会社の場合、後継者に株式を集中させるためには、その前提として分散した株式を買い取ることが必要となります。経営者や後継者による個人的な買取りのほかに、会社が一定の方式に従って自己株式を買い取ることも可能です(金庫株)。
その上で、後継者へ株式(議決権)を集中させ、好ましくない者に対する株式の分散を防止するために、会社法に定める以下の制度を活用することが考えられます。
|
|
|
|
相続人等に対する売渡請求
会社法では、非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)において、定款に定めることにより、相続等で譲渡制限株式を取得した者に対し、株式会社がその株式の売渡しを請求することができることとなりました(174条)。相続による株式の分散を防ぎ、中小企業の円滑な事業承継のために設けられた制度です。
|
売渡請求を行うには・・・
@ |
あらかじめ、定款に「当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。」旨の定めをしておく。 |
A |
相続等があったことを知った日から1年以内に、株主総会の特別決議(議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の多数)を経て、売渡請求を行う。 |
B |
株式の売買価格の協議が整わないときは、売渡請求の日から20日以内に裁判所に売買価格決定の申立てをする。 |
C |
剰余金分配可能額を超える買い取りはできない。 |
|
|
|
|
|
議決権制限株式
会社法では、非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)において議決権制限株式の発行限度が撤廃されました。そこで、相続が起こる前に、後継者以外の相続人に相続させる株式について、議決権制限株式に変えておくことが考えられます。
しかし、種類株式については、税務上の取扱いについて不透明な点があり、その他にも検討すべき点があります。
|
|
|
|
その他の新会社法上の制度の検討
■ 議決権についての株主ごとの異なる取扱い
会社法では、非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)において、定款に定めることにより、議決権について株主ごとに異なる取扱いができるとされています(109条2項)。この規定により、後継者以外の相続人に相続される株式について議決権を制限することが考えられます。
しかし、この定款変更には、総株主の過半数で、議決権の3/4以上の多数という株主総会の特殊決議が必要であり、また当該株主一代限りの効力しかないなど、使いにくく弊害も多いという問題があります。
■ 「黄金株」と呼ばれる拒否権付種類株式
会社法では、当該種類株主総会の決議がなければ効力が生じないという「黄金株」と呼ばれる拒否権付種類株式の発行が認められています(108条8号)。この黄金株を後継者に取得させることにより、経営権を維持させることが考えられます。
しかし、株主総会と種類株主総会の決議が相対立する場合デッドロックに乗り上げてしまうなど弊害が多いという問題があります。
|
|
|
|
事業承継に備えて
このように、会社法では、中小企業の事業承継に活用できるいくつかの制度が設けられています。ただし、相続人等に対する売渡請求以外は、不透明な点や弊害も指摘されています。専門家と相談しながら、後継者への株式等の移転方法を検討するのがよいでしょう。
あらかじめ後継者への事業承継を意識して、@株式等の事業用資産の段階的移転や遺言書の作成を含む相続の準備、A後継者教育、B社内、取引先等の理解を得るための方策等を含む事業承継計画を立て、これを実行していくことが重要です。
|
|
|
|
|