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取締役の任期を10年に伸ばせるのか?
■ 非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)においては、取締役の任期を10年まで伸長できる。
これまで株式会社では、取締役の任期は原則2年とされていました。しかし、新会社法では、非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)においては、定款に定めることにより、取締役の任期を10年まで伸長することができます(332条2項)。
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取締役会を無くすことができるのか?
■ 非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)においては、取締役会を設置しないことが可能となる。
これまで株式会社では、取締役を3人以上置いて取締役会を設置しなければなりませんでした。しかし、新会社法では、非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)においては、取締役会を設置しないことが可能となり(327条1項)、また、この場合取締役は1人でもかまわないとされています(326条1項)。
■ 取締役会を設置しない会社では、株主総会の権限に制約がない。
しかし、取締役会を設置しない会社では、株主総会は株式会社に関する一切の事項について決議をすることができるとされ(295条1項、2項)、しかも、株主に取締役に対し一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる等の議題提案権(303条1項)や議案記載請求権(305条1項)が認められますので、敵対的な者が株主になった場合、会社の運営に支障を来すことも懸念されます。
■ 100%子会社での活用も考えられる。
取締役会を設置しない会社では、株主総会の権限に制約がないことになるので、100パーセント子会社の場合、子会社に取締役会を設置しないで、株主である親会社が株主総会を通じて子会社の経営をコントロールしていく方法も考えられます。 |
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どのような「機関設計」が可能か?
■ 株主総会以外の機関の組合せの選択肢が拡大した。
新会社法における株式会社では、取締役会を設置しない形態も含め、株主総会以外の機関の組合せの選択肢が大幅に拡大しました。
■ 非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)で可能な機関設計
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中小会社
取締役 |
取締役+監査役(*1) |
取締役+監査役+会計監査人 |
取締役会+会計参与 |
取締役会+監査役(*1) |
取締役会+監査役会 |
取締役会+監査役+会計監査人 |
取締役会+監査役会+会計監査人 |
取締役会+三委員会+会計監査人 |
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大会社
取締役+監査役+会計監査人 |
取締役会+監査役+会計監査人 |
取締役会+監査役会+会計監査人 |
取締役会+三委員会+会計監査人 |
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■ 公開会社で可能な機関設計
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中小会社
取締役会+監査役 |
取締役会+監査役会 |
取締役会+監査役+会計監査人 |
取締役会+監査役会+会計監査人 |
取締役会+三委員会+会計監査人 |
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大会社
取締役会+監査役会+会計監査人 |
取締役会+三委員会+会計監査人 |
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(*1) 定款により、監査役の権限の範囲を会計監査権限に限定することが可能 |
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(*2) 会計参与は、いずれの機関設計においても設置可能 |
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監査役に業務監査権限を与えるべきか?
■ 監査役は原則として会計監査権限と業務監査権限の両方を有する。
これまで小会社の監査役は、会計監査権限のみを有するとされていました。しかし、新会社法においては、監査役は原則として、会計監査権限と業務監査権限の両方を有するものとされています(381条)。これは中小企業のガバナンス強化のために監査権限の強化が必要と考えられたからです。
■ 大会社を除く非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)においては、監査役の権限を会計監査権限に限定できる。
大会社を除く非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)においては、定款で定めることにより、監査役の権限を会計監査権限に限定することができます(389条)。
■ 取締役会設置会社で監査役の権限を会計監査権限に限定した場合、株主の監督権限が強化される。
取締役会設置会社で業務監査権限を有する監査役が設置されていない会社においては、以下のとおり、株主の監督権限が大幅に強化されます。
@ 株主は、裁判所の許可を得ることなく、取締役会議事録等の閲覧等ができる(371条2項、3項)。
A 株主は、取締役が違法行為をするおそれがあると認められるときに取締役会の招集を請求することができ、一定の場合自ら取締役会を招集でき、これに出席し、意見を述べることができる(367条1項、3項、4項)。
B 定款の定めによる取締役の過半数の同意、取締役会を設置する場合には取締役会決議により取締役等の責任を一部免除する制度の適用除外(426条1項)。
C 取締役は、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合には、株主にこれを報告しなければならない(357条1項)。
D 株主の違法行為差止請求権の行使要件が緩和される(360条1項、3項)。
したがって、監査役の権限を会計監査権限に限定することについては、その代償として株主の監督権限の強化によりガバナンスの維持向上が図られていることをよく理解した上で検討する必要があります。
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すでにある株式会社が定款や登記を変更をしない場合の機関構成はどうなるのか?
■ 定款・登記はそのまま新会社法における会社の定款・登記とみなされる。
すでにある株式会社は、新会社法施行後も新会社法上の株式会社として存続します(整備法66条1項)。すでにある会社の定款・登記は、新会社法施行後の会社の定款・登記とみなされます(整備法66条2項、113条1項)。
■ 定款に記載がない場合、取締役会、監査役を置く定めがあるものとみなされる。
定款で別の定めをしない場合、取締役会、監査役を置く定めがあるものとみなされ(整備法76条2項)、その旨の登記があるものとみなされます(整備法113条2項3項)。
■ 定款に記載がない場合、小会社の監査役は会計監査権限に限定する定めがあるものとみなされる。
定款で別の定めをしない場合、小会社の監査役は会計監査権限に限定する定めがあるものとみなされます(整備法53条)。その結果、「監査役に業務監査権限を与えるべきか」の回答のとおり、株主の監督権限が強化されることになりますので、この点で問題のある会社は、新会社法施行にあわせて定款の変更を検討する必要があります。
なお、「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する定款の変更」を行った場合、従来の監査役は退任することになります(336条4項3号)。
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会計参与とは何か?
■ 会計参与とは
会計参与は、取締役と共同して、計算書類を作成する者で(374条1項)、公認会計士または税理士でなければならないとされています(333条1項)。
会計参与制度は、有資格者である公認会計士または税理士が取締役と共同して計算書類を作成し、取締役とは別に計算書類の保存・開示義務を負うことで、計算書類に対する信頼を高めることを目的とするものです。
■ 会計参与を導入するか否か。
金融機関が融資を行うに際し、会計参与を設置している会社を有利に取り扱ってくれるか否か(たとえば、融資枠の拡大、金利の優遇、担保の軽減など)が、会計参与制度が広まるか否かに大きく影響するといわれています。
金融機関は、これまで不動産や代表者の個人保証などの担保を重視してきましたが、最近は事業の将来性や経営者の資質等企業価値を適正に評価して、担保が不足する場合でも融資を実行するケースも出てきているとの話も聞かれます。
会計参与の設置により会社の計算書類の信用性が高まり、企業価値が適正に評価されることによって、融資がなされたり、融資条件がよくなるなどの効果が見込まれる場合、会計参与を導入するメリットがあるといえるでしょう。
■ 取締役会設置会社において監査役を置かない場合は会計参与を置かなければならない。
大会社を除く非公開会社(全部の株式を譲渡制限株式としている会社)で取締役会設置会社においては、監査役を置かない場合、会計参与を置かなければなりません。
なお、会計参与を設置する場合は、定款にその旨を定めて登記をする必要があります。
■ 会計参与と取締役の意見が異なる場合どうなるか。
取締役と会計参与の意見が異なる場合、計算書類を作成することができないことになり、計算書類の承認のための株主総会を開催することもできなくなります。
■ 会計参与の責任
会計参与は、会社とは別に、計算書類を備え置き、会社の営業時間内は、株主及び債権者の請求に応じていつでも計算書類の閲覧、謄本・抄本の交付等をしなければなりません(378条1項、2項)。
会計参与が、任務を怠り会社に損害を与えた場合は、その損害を賠償する責任を負います(423条1項。なお、社外取締役と同様の責任制限を設けることはできます)。また、この責任は株主代表訴訟の対象となります(847条)。
会計参与は、その職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、第三者に生じた損害を賠償する責任があります(429条1項)。
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現在の有限会社をどうすべきか?
■ 現在の有限会社は、新会社法施行後は法的には株式会社となる。しかし、特例有限会社として「有限会社」という語を用いた商号を使用し、実質的に現在とほぼ同じ規律が適用される。
現在の(新会社法施行時にすでに設立されている)有限会社は、新会社法施行後は法的には株式会社として存続することになり、定款変更や登記申請等の手続きは必要ありません。
しかし、新会社法施行後は、「特例有限会社」として、「有限会社」という語を用いた商号を使用しなければならず、また、@取締役、監査役の任期に制限がない、A決算公告の義務がないなど、実質的に現在の有限会社とほぼ同じ規律が適用されます。
■ 特例有限会社は株式会社へ移行することもできる。
特例有限会社は、法的には株式会社であり、「商号変更」により株式会社へと移行することができます。
手続き的には、@定款を変更して、その商号を「株式会社」という語を用いた商号に変更し、Aその定款変更決議から一定期間内に、特例有限会社についての解散の登記と、商号変更後の株式会社についての設立の登記を行うことになります。
一旦株式会社に移行した後は、再び特例有限会社に復帰することはできません。
■ 特例有限会社としてそのまま残すことが有用な場合もある。
このように、特例有限会社は、現在の有限会社と同様、取締役、監査役の任期に制限がない、決算公告の義務がないなど、「株式会社」と違いがありますので、現在の有限会社については、株式会社に移行させずにそのまま特例有限会社として残すことが有用な場合もあるでしょう。
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