ロゴマークと著作権(弁護士 寺澤政治)


 Y社は、以前デザイナーX氏に依頼して作成してもらった会社のロゴマークの一部に変更を加え、関連会社のロゴマークとして使用したところ、X氏より著作権・著作者人格権を侵害しているとのクレームを受けました。Y社は、ロゴマークの作成にあたってX氏との間で契約書を作成していませんが、代金を支払って納品を受けているので問題になるとは思っていなかったのですが・・・(2010/12/5)。


リストマーク 著作権と著作者人格権

■ 著作物を創作した著作者には著作権、著作者人格権が認められている。
 「著作物」とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術まはた音楽の範囲に入るもの」をいいます。
 「著作権」とは、著作者が著作物に対して持つ権利であり、複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案権などがあります。
 また、著作者には「著作者人格権」が認められており、これには、公表権、氏名表示権、同一性保持権があります。
 したがって、他人の著作物を、無断で譲渡すると著作権(譲渡権)の侵害となり、無断でその一部に変更を加えると著作者人格権(同一性保持権)の侵害となってしまいます。


リストマーク
著作権法で保護される「美術の著作物」とは?

■ ロゴマークは著作権法上の「美術の著作物」に該当するか。
 著作権法で保護される「著作物」については、著作権法第10条第1項に、以下のとおり例示されています。
小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
音楽の著作物
舞踏または無言劇の著作物
絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
建築の著作物
地図または学術的な性質を有する図画、図表、模型その他の図形の著作物
映画の著作物
写真の著作物
プログラムの著作物

 ロゴマークは、4号の「美術の著作物」に該当するかが問題となります。
 一般に美術作品は、「純粋美術」と「応用美術」とに分類されます(昭和41年7月文化庁「著作権制度審議会答申説明書」)。このうち、「純粋美術」とは、「思想または感情が表現されていて、それ自体の鑑賞を目的とし、実用性を有しないもの」とされており、他方、「応用美術」とは、「実用品に美術あるいは美術上の感覚・技法を応用したもの(実用に供しあるいは産業上利用することを目的とする美術創作物)」とされています。
 著作権法で保護される「美術の著作物」には、「純粋美術」のほか、「応用美術」のうちの「美術工芸品」が含まれるものとされ(著作権法第2条第2項)、判例では、著作権法上保護される「応用美術」とは、「それ自体が実用面および機能面を離れて完結した美術作品として専ら美的鑑賞の対象とされているものをいう」とされています(最高裁平成3年3月28日判決)。
 ロゴマークは、上記の「応用美術」に該当しますが、「美術工芸品」ではありませんし、一般的には、「実用面及び機能面を離れて完結した美術作品として専ら美的鑑賞の対象とされるもの」ということも難しいと思われます。
 そうすると、一般的には、ロゴマークは、著作権法で保護される「美術の著作物」には該当せず、著作権や著作者人格権は認められないものと考えられますので、X氏のY社に対する著作権・著作者人格権侵害といった著作権法上のクレームは認められないものと考えられます。


リストマーク トラブルを避けるために

■ 契約書の作成とロゴマークの商標登録を
 デザイナーにロゴマークの製作を依頼する際、わざわざ契約書までは作らないというケースが多いようです。しかし、ロゴマークはデザイナーによる創作物ですので、創作したデザイナーに「著作権」があると考える人は少なくありません。本件のようなトラブルを避けるためには、ロゴマークに関する権利関係を明確に定めた契約書を作成することをお勧めします。
 また、ロゴマークは、消費者などに対し、誰が商品やサービスを提供しているかを識別させるものであり、広く知られるようになれば信用(ブランド)が化体して財産的価値を有するようになります。したがって、ロゴマークについては、他者が類似したものを使用したり、先に他者に登録されてしまうことを防止するために、あらかじめ商標登録をしておくことがとても重要です。



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