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旅行業法の規定
旅行業法第3条では、「旅行業・・・を営もうとする者は、観光庁長官の行う登録を受けなければならない。」とされており、同法第29条1号により、登録を受けずに旅行業を営むと100万円以下の罰金に処すると規定されています。
そして、旅行業とは、「報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業・・・をいう」と定義されており、その行為とは、旅行者に対する運送や宿泊のサービスの計画を立て、鉄道会社、旅館等のサービス提供者と契約をし、あるいは旅行者とサービス提供者との契約を媒介する等が挙げられています(同法第2条)。
簡単にまとめると、@報酬を得ているか、A反復継続性があるか、B不特定多数を対象としているかという3つの要件に当てはまると、「旅行業」に該当し、旅行業者として登録を受けなければならない、すなわち、登録を受けずに行うと、旅行業法違反として取り締まりを受けてしまうということになるのです。
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利益が無くても「報酬を得ている」?
第1の要件の「報酬を得ているか」についてですが、利益が無くても経済的収入を得ていれば「報酬を得ている」と解釈されています。
たとえば、「参加費5000円」というように、包括料金で参加者からお金を受け取り、そのお金を集めてその中から鉄道会社に貸切電車の運賃を支払い、その他の経費を支払ったとしても、一旦は、企画運営者に収入として計上されるため、「報酬を得ている」と解釈する、というのが行政の考え方なのです。
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1回目であっても「反復継続性がある」?
第2の要件の「反復継続性があるか」についてですが、これは別の法律の「業として」という要件の解釈の中ですでに最高裁判例があり、実際に反復継続して行っていなくても、反復継続の意思で足りるとされています。
何かの記念でこの1回切りで行ったものということが客観的に説明できる場合は「反復継続性」はないとされることもあるかもしれませんが、1回目であったとしても将来反復される可能性がある場合は、「反復継続性」があると判断されてしまうこともありうるのです。
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「不特定多数」とは?
第3の要件の「不特定多数を対象としているか」についてですが、逆に「不特定多数」ではないとされる例としてよく挙げられるのは、同一職場内で幹事が募集する、学校が生徒を対象として募集するといった場合です。互いに日常的接触のある団体内部で参加者の募集がなされ、かつ、当該団体の構成員により募集がされているであれば、不特定多数という要件は満たさないとされています。そして、メルクマールとしては、互いに顔見知りであるか否かで判断されているようです。ただし、最近は直接会うだけではなく、SNSなどでも友人関係が成立することから、インターネットを介して交流がある人同士という範囲に広げる解釈は可能かもしれません。
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貸切列車の企画は旅行業法に違反するのか?
貸切列車の企画について考えてみましょう。
貸切列車を走らせるためには、何十万円かの費用を鉄道会社に支払わなければなりません。その他にも諸々の費用が発生します。そのために参加者から参加費を集めますが、1人5000円というように包括料金で徴収すると、行政の解釈では第1の要件(報酬を得て)に該当してしまいます。
貸切列車は、たとえば今年はA鉄道のBという電車でやろう、来年はC鉄道のSLでやろうというように、頻繁に行われるというわけではありませんが、1回切りというわけでもありません。上述した意味では「反復継続性」があると判断されてしまうおそれがあります。
貸切列車の参加募集は口コミやブログ等で行うことになりますが、鉄道関係とはいえ不特定多数の閲覧に供するブログで募集すると、これは「不特定多数を対象としている」と判断されてしまうことも十分考えられます。
そうすると、形式的には、旅行業法に定める「旅行業」に該当するとも解釈できることから、旅行業者として登録をしないでやると旅行業法に違反するという指摘が出されたのだと思われます。
しかし、私は、このような解釈は、あまりに杓子定規にすぎ、おかしいのではないかと考えます。
そもそも、旅行業法の目的は、旅行業を営む者を監督することにより、旅行者という一般消費者の利益を保護しようというものです。営利目的で業者が一般消費者を対象に旅行という商品を販売するのではなく、鉄道好きの個人が口コミや個人で開設する趣味のブログの範囲で同好者の参加を募り、割り勘・手弁当で行う何ら営利性のない貸切列車の企画まで、旅行業法で規制しなければならないとは到底思えません。
また、旅行業法が規制する旅行業に関する行為として問題になるのは、「運送のサービス」を手配しているということでしょうが、ここでいう運送とは、旅行者を目的地に運送することをいうと考えられます。ところが貸切列車については、その列車である場所に運送することを目的としているのではなく、列車に乗ること自体が目的です。そうすると、貸切列車における列車の乗車は、旅行業法に定める「運送」ではなく、旅行業には該当しないとされる美術館などの施設の入場や体験等と同様に解すべきではないでしょうか。
東京から貸切列車の走る鉄道の場所までの交通手段を手配すれば、それは旅行業の定める「運送のサービス」を手配することになるでしょうが、そこは参加者各自が行うのであれば、企画運営者が企画により利益を得ている等の事情がない限り、旅行業法違反になるとは思えないのです。
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高松高裁の判例について
高松高裁平成25年1月29日判決において、旅行業者の登録を受けずにバイクツアーを実施して旅行業を営んだとして、旅行業法違反で起訴された事案につき、「旅行業法29条1号にいう旅行業に該当する行為を営むとは、営利目的で、旅行業に該当する行為を行うことをいうと解される」と判示されました。
この判例は、今回の貸切列車企画の問題を考える上で参考になります。「営利目的か否か」がポイントになるということです。行政解釈では、参加費を包括料金で徴収すればその時点で収入があるとし、その参加費をすべて鉄道会社の運賃や諸経費に支払ったとしても「報酬を得て」に該当するということでした。しかし、「営利目的か否か」で判断するとすれば、利益を得ず、割り勘で行うのですから、「営利目的ではない」ということになるでしょう。
近年自治体の子供向けツアーが旅行業法違反の指摘で相次いで中止になるという事態が報道されています。これについては、観光庁が要件を緩和する通知を出したようですが、本来自由に行えるはずのものまで規制されてしまうことのないよう、また、市民の自由な活動が委縮してしまうことのないよう、営利目的でないものは旅行業者の登録が無くても行えることを明確化してもらいたいものです。
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