相続の手続きA (弁護士 寺澤政治)


遺産分割の争いでよく問題となる「特別受益」と「寄与分」についてご説明します(2006/6/7)。


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特別受益とは?

ある相続人が遺贈や一定の生前贈与を受けていた場合、その遺贈等を「特別受益」といい、他の相続人との公平を図るため、これを遺産分割時に精算することとされています(民法903条)。


(例)
被相続人の遺産は2100万円ですが、生前長男が住宅を購入する際に頭金の一部として300万円を贈与していたとします。

 上記の例では、相続財産は2100万円に生前贈与された300万円を加えた2400万円とみなされます。妻の法定相続分は1/2の1200万円、長男・次男の相続分は各1/4の600万円となりますが、長男の相続分については、生前贈与された300万円を特別受益として控除され、その残額の300万円となります。

■ 特別受益とされるもの
 遺贈については、すべて特別受益となります。
 贈与については、@婚姻、養子縁組のためのもの(持参金、嫁入り道具、結納金、仕度金などが該当しますが、挙式費用は含まれないとする見解が有力です。)、A生計の資本としてのものが、特別受益となります。Aの「生計の資本」とは、家や営業資金などに限られず、かなり広く考えられていますが、被相続人の資産や生前の収入、家庭の生活状況等により結論が異なるものもあります。

特別受益の評価
 特別受益額は、対象物の相続開始の時の評価額で計算します。例えば、過去に当時1000万円の不動産を贈与された場合であっても、相続開始時の時価が5000万円であれば、5000万円の贈与があったものとして計算します。
 金銭については、従前は贈与の時の金額で計算しその後の貨幣価値の変動は考慮しないとされておりましたが、現在は贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価されています(広島高裁平成5年6月8日決定等。なお、遺留分の算定に関し最高裁昭和51年3月18日判決)。



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寄与分とは?

ある相続人が被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をしたとき、他の相続人との公平を図るため、寄与をした相続人に対し、その者の寄与分を取得させることとされています(民法904条の2)。


(例)
被相続人の遺産は2000万円ですが、生前長男のみが被相続人とともに家業に従事して以前の維持・増加に寄与し、その寄与分が800万円と評価されたとします。

 上記の例では、相続財産は2000万円から長男の寄与分である800万円を控除した1200万円とみなされます。妻の法定相続分は1/2の600万円、長男・次男の相続分は各1/4の300万円となりますが、長男の相続分については、800万円の寄与分を加えた1100万円となります。

■ 寄与分は共同相続人にしか認められません。
 たとえば、長男の妻が長男の死亡後に被相続人である義父の家業に従事していたとしても、相続人ではないので寄与分は認められません(長男の妻が長男とともに被相続人の家業に従事していた場合は、長男の寄与分の算定において長男の妻の寄与にかかる分も併せて考慮する等、実質的に認められる可能性は考えられます。)。また、配偶者と子が共同相続人である場合、直系尊属や兄弟姉妹が遺産の増加に寄与していたとしてもやはり寄与分は認められません。

■ 寄与分となるもの
 被相続人の事業に関する労務の提供、被相続人の事業に関する財産上の給付、被相続人の療養看護、その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした場合に、寄与分が認められるものとされています。

■ 寄与分を定める手続き
 まず、共同相続人全員で、相続開始後遺産分割終了前までに(通常は遺産分割協議と同時に)協議し、寄与分を決定します。
 また、寄与をした者を申立人、他の共同相続人全員を相手方として、相続開始後遺産分割終了前までに、家庭裁判所に対し、寄与分を定める調停を申し立てることができます。
 寄与分についての協議が調わないか又は協議をすることができないときは、寄与をした者を申立人、他の共同相続人全員を相手方として、@遺産分割の審判の申立てがなされている場合、A遺産分割の調停が不成立により審判に移行した場合、B遺産分割の審判の申立てと同時にする場合、家庭裁判所に寄与分を定める審判を申し立てることができます。




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