信託とは何か? (弁護士 寺澤政治)


 新信託法が平成19年9月30日から施行されました。従来は、信託銀行が受託する貸付信託、証券投資信託、年金信託や、資産の流動化による資金調達などで信託が使われていましたが、新信託法の制定を契機として、老後の財産管理、死後の配偶者や子供の生活保障、相続や事業承継など私たちの身近な分野においても信託の活用が検討されています(2009/10/13)。


リストマーク 信託とは?

■ 典型的な「信託」とは、委託者が契約や遺言によって一定の目的のために自己の財産を受託者に譲渡し、受託者がその目的に従って財産を管理または処分し、これによって得られる利益を受益者に与えるものをいう。
 例えば、障害のある子Cを持つ親Aが、自分の死後子供の生活費を確保するために、自分の財産を信頼できる者Bに譲渡してその財産を管理・運用してもらい、その利益を、定期的に子Cに交付するというような信託を考えると、親Aが委託者、Bが受託者、子Cが受益者となります。


委託者
信託財産の元の所有者
所有する財産を信託する者


財産の移転

受託者
信託財産の所有者
受益者のため信託財産を
管理運用する者
利益の給付

受益者
信託から生じる利益を
受け取る者
【信託法上の信託の定義】
この法律において「信託」とは、・・・特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。・・・)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう(第2条1項)。


リストマーク
信託を使うメリット

■ 「信託」を使うことにより、上記の例では、一定の目的のために財産を確保できるメリットがある。
 上記の例において、子Cが障害のために財産を管理する能力が十分にない場合、親Aから子Cにそのまま財産が相続されてしまうと、子Cが財産を浪費してしまったり、詐欺的商法に引っかかったりして、財産が散逸してしまう危険があります。信託を使った場合は、受託者Bが財産を管理するため、そのような危険を回避することが可能となります。
 親Aは、受託者Bとの間での信託契約において、信託財産の運用方法や毎月の給付額を定めることができ、自分の死後も子Cの生活が維持できるよう計画しておくことが可能となります。
 委託者Aから受託者Bに譲渡された信託財産は、受託者Bに属する財産となり、委託者Aの財産でなくなることは当然ですが、受託者Bもこれを自由に処分することはできず、信託の目的に拘束されることとなります。また、信託財産は、受託者Bの固有財産とは区別された扱いがなされることとなります(信託財産の独立性)。例えば、受託者Bに対する債権者は信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分、担保権の実行、競売、国税滞納処分をすることができず(信託法第23条1項)、受託者Bが破産手続開始の決定を受けた場合であっても、信託財産に属する財産は破産財団に属しないものとされています(信託法第25条1項)。



リストマーク 信託の方法

■ 信託の方法には、信託契約、遺言信託、自己信託(信託宣言)の3つの方法がある
(信託法第3条)
信託の方法 その内容
@信託契約
受託者との間で、受託者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに受託者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約を締結する方法
A遺言信託
受託者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該処分の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法
B自己信託
(信託宣言)
特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法
@の信託契約、Aの遺言、Bの意思表示を信託行為といいます。
 


リストマーク 信託の設定における注意点

■ 受託者には信託法上さまざまな義務が定められているが、信託を設定する際には、受託者の選定が重要であり、また受託者の権限濫用を防止するための検討が必要である。

 受託者には、以下の禁止規定や義務規定が定められています。
信託事務遂行義務(信託法第29条1項)
善管注意義務(信託法第29条2項)
忠実義務(信託法第30条)
利益相反行為の禁止(信託法第31条)
競合行為の禁止(信託法第32条)
公平義務(信託法第33条)
分別管理義務(信託法第34条)
委託先の選任・監督義務(信託法第35条)
報告義務(信託法第36条)
帳簿等の作成、報告、保存及び開示義務(信託法第37、38条)
他の受益者の氏名等の開示義務(信託法第39条)
 また、受益者は、受託者に対し、受託者がその任務を怠ったことによって信託財産に損失が生じた場合は損失のてん補を、信託財産に変更が生じた場合は原状の回復を請求することができるほか(信託法第40条1項)、一定の場合、その行為の差止めを請求することができるものとされています(信託法第44条1項)。
 信託は、一定の目的のためとはいえ、受託者に財産の権利を移転してしまうものですから、受託者には信用できる者を選定することが必要不可欠です。
 また、信託行為においても、受託者の権限濫用を防止するため、信託監督人受益者代理人を選任する、任意後見と信託とを組み合わせる等の検討が必要でしょう。


本サイトの記載内容や写真等は著作権法により保護されております。
無断で転載、複写することはできません。
トップページ以外への直リンクは禁止します。

(c) copyright, Lawyer MASAHARU TERAZAWA All rights reserved.