民事信託の活用と課題E (弁護士 寺澤政治)


 平成23年1月11日日弁連講堂クレオにて、「民事信託の活用と課題」と題する弁護士研修講座の講師を務めました。民事信託とは、高齢者の財産管理のための信託、障害者の扶養のための信託、子や孫の養育や教育のための信託、遺産分割による紛争の防止や財産承継の手段としての信託など、親族内における財産の管理、移転等を目的とする信託をいいます。講演のダイジェスト第6回は、民事信託を設定する上で検討すべき事項について説明します(2011/1/23)。


リストマーク 受託者の選定において注意すべき点

■ 受託者を誰にするか。
 民事信託では、委託者、受託者、受益者とも家族・親族の者となる家族内信託が一般的と考えられます。業として信託を受託できる者としては、信託銀行や信託会社がありますが、高額な信託報酬を支払うことが必要となりますし、資産要件を設けている場合や、受託する財産を金銭のみとして不動産を受託しない場合もあり、一般の人にとって使い勝手がよいとは言えない状態にあると思われます。
 受託者は、信託目的に従って、他人のために財産を管理又は処分し、受益者に経済的利益を給付するという業務を長期間にわたって遂行しなければならず、受託者に課せられる義務や責任等も考慮すれば、信頼できる家族内または親族内の者に受託者をお願いするということが多くなるものと考えられます。

■ 受託者から事前の承諾を得ておくことが重要
 事前の相談もなしに、遺言信託において誰々を受託者とするなどと指定しても、信託の効力を生じる段階になってその者が受託者を引き受けてくれる可能性は低いと考えられることから、信託を設定する場合には、事前に受託者となるべき者とよく相談して、承諾を得ておくことが重要です。その意味でも、生前に委託者と受託者とが信託契約を締結する生前信託である遺言代用信託の方が利用しやすいということができるかもしれません。

■ 受託者の監督のために
 家族内信託であっても、信託の設立に際して、スキームの構築や信託契約書の作成などを弁護士に依頼することになるでしょうし、信託を活用したスキームの中で、例えば、受託者を監督するための信託監督人や、委託者の生前の希望に副って委託者の死後も受託者が信託事務を遂行していくよう受託者に指図する指図者として弁護士などの専門家を活用することも考えられます。


リストマーク 信託の合理性・柔軟性

■ 受益者のライフプランに適合する合理的で柔軟な信託を

 親が亡くなった後の幼い子や障害を持つ子のための財産管理や安定的な生活を営むことができる方策を考えるということになると、その子の人生という将来の非常に長期の期間を対象とするものとなります。生活費の支払といっても年齢等に応じて変化するし、進学等のライフステージの変化や、住居の修繕や改築、入院手術等の臨時の支出にも対応できるものでなければなりません。障害といってもその内容・程度は千差万別であり、福祉制度の利用等によっても必要な給付の内容が変わってきます。
 信託を設定するにあたっては、委託者その他の関係者からの聴取を含め必要事項をよく調査し、受益者のライフプランに適合する合理的な内容の信託を設定するようにしなければなりません。また、受益者の生活環境等の変化にも対応できる柔軟性も考慮しなければなりません。

リストマーク 法定後見の併用

■ 任意後見・成年後見の併用

 信託は、基本的には一定目的のために信託財産の管理、処分、運用を行うというものですから、受益者の身上監護の面において、後見制度の機能をすべて備えているわけではありません。そうすると、財産の管理と本人の生活、療養監護を十分に図っていくためには、任意後見、成年後見との併用ということも考える必要があります。
 その場合、任意後見人、成年後見人と信託における受託者が協働して受益者(被後見人)の保護に資するよう、信託行為の条項を定めておくことも重要となります。


リストマーク 信託契約等の条項の策定

■ 信託の設定において検討すべき事項

 信託契約や信託を用いた遺言を作成するにあたって検討すべき項目としては、以下のものが考えられます。受益者の属性(年齢、障害の内容程度)、人的資源(受益者を保護してくれる者)、物的資源(受益者の生活を保障するために使用する財産等)、社会資源(受益者のために利用できる社会福祉制度等)を十分に調査・確認し、受益者の将来の生活環境やライフステージの変化を踏まえたライフプランの予測やキャッシュフローのシミュレーションを行った上で、以下の項目ごとに整理し、信託契約や遺言の条項に落とし込んでいくことになります。
1 信託の目的
2 信託期間
3 信託財産の内容・額
4 定時給付の時期・内容・条件等
5 臨時給付の時期・内容・条件等
6 その他の信託事務の内容等
7 受益者の指定・変更の有無・時期・条件等
8 必要経費の内容・支出方法等
9 受益権の変更・譲渡・質入れ等の禁止・制限等
10 受益者の生活環境の変動要因と信託条項の柔軟性・変更等
11 指図者・同意者の必要性、選定、指図する事項、同意の条件等
12 信託監督人の指定の有無、選定等
13 成年後見・任意後見制度の併用の要否、権限調整規定等
14 信託の終了事由(放棄、解約、死亡等)
15 終了時の残余財産の帰属等
16 受託者・信託監督人等の報酬額・支払方法等
17 遺留分の侵害になる可能性と対応方法
18 その他個別事案ごとに考慮すべき事項

(以下、「民事信託の活用と課題F」に続く。)



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